労働問題が起こる前に予防することが大事です。労働問題が起こってしまったら、解決できたとしても時間もお金もマイナスです。
トラブルにならないように、予防策に時間とお金をかけていく必要があります。
いちいち仕組みを作るのも少々面倒ですが、予防のための仕組みを持っておくと、確実に労働問題を減らすことができます。
労働問題も様々なケースがありますが、まずは、「急に辞められる」「なかなか辞めてもらない」に限らず、全般的におこなうべき予防策をお伝えいたします。
誓約書にはルールや禁止事項を記載して、サインを書いてもらいます。「きちんとルールを元に運営されているクリニックなのだな」と印象づけられます。
雇い入れ時には、身元保証人を書いてもらいます。身元保証人は親が1番良いでしょう。固定電話などの番号も書いてもらいます。トラブルになったときに連絡がいくことになるため、抑止力になります。
身元保証人は、親であっても本人の状況を把握していないこともあり、トラブルがあったことを伝えると、驚かれることがあります。案外トラブルになったことを誠実に伝えたら、力になってくれることもあります。
以前勤めたスタッフが別の医療機関の面接を受けて、当院にも「どんなスタッフだったか」電話がかかってくることがあります。スタッフの働きぶりについては答えてはいけないので、当院では回答していませんが、他の医療機関では答えているクリニックもあるようです。
最もおこなった方が良い予防策です。トライアル勤務をすると、その人の能力や人柄がある程度わかります。また、トライアル勤務してみて、本人から辞退の申し出があることもあります。
ただし、トライアル勤務では全てはわかりませんし、入職率はトライアル勤務を挟むことで下がります。人手不足のときは、やむを得ずなしで雇用するのも1つの選択肢です。
スタッフのおこなうことをマニュアル化します。社会常識的に考えてありえない患者様への対応をするスタッフもいます。
マニュアル化して、ルールを決めることにより、いちいち指摘する回数が減り、もしマニュアルから逸脱していた場合も指導しやすくなります。無駄な軋轢を生む必要はありません。
定期的に面談をする、ご飯を食べにいくなどコミュニケーションを取ることもあります。悩み事やトラブルを早くに察知することができます。診療時間中に言いにくいことも、面談や外では言いやすいこともあるでしょう。
トラブルの相談をするとよく、「事務長を雇えばいいじゃない」と親切にもアドバイスをもらうこともあります。
事務長を雇えばすぐに解決するほど甘くはないです。親族や元々の仲間以外で、中途で事務長が全てを仕切って順調なクリニックをあまり見たことがありません。中途で事務長を雇用すると、既存のスタッフと折り合いが悪くなるケース、能力が低く事務長としての業務を遂行できないケース、お金の管理を集中的におこなうため横領してしまうケースもよく聞きます。
そもそも売上が1億円程度のクリニックであれば、事務長を年俸500万円で雇用したとしても費用対効果を発揮しないケースがほとんどです。明確な基準はありませんが、医療事務をおこなわず、事務長業務のみをおこなうのであれば、分院展開をしている、複数科あり常時ドクターが3名くらいいる売上が3億円以上が目安といえます。
事務長を一本釣りで採用できるほど、人を見る目がある人は少なく、もし合わなかったら、クリニック全体がおかしくなってしまうこともあります。
うちのクリニックでは、スタッフの中で優秀な人を大切にして、給与を多く支払って、事務長としての仕事をしてもらっています。外部からヘッドハンティングよりも、内製した方がクリニックのことも知っていますし、他のスタッフとの関係性もスムーズです。
税理士や社会保険労務士の中には、親身になって相談にのってくれる、知恵を授けてくれる頼りになる先生もいれば、どっちの味方かわからないような杓子定規の先生もいます。
開業医と同じで、知識だけでなく、人柄が大事です。法律的な知識以外にも顧客(開業医)へのメンタルケアも大事で、ストレスで診療に差し障ってしまったら患者さまのためにもなりません。
頼りになる先生であれば、多少顧問料が高かったとしても、その分1,2万円は多く支払う価値があります。担当がコロコロ変わる税理士事務所や社会保険労務士事務所は、気が合わない先生になってしまうリスクがあります。もし気が合わない場合は、変更してもらうと良いでしょう。
個人で独立している先生であれば、よっぽどのことがない限りはアドバイスを受け続けることができるでしょう。そういった意味では、個人事務所を選ぶのも選択肢の一つです。
逆に、担当が変わる可能性もある大規模な事務所は、顧問先が多い分、事例が集まりやすく、相談しやすいということもあります。一概にどちらがいいとはいえませんが、一長一短あります。
ネットが発達してきたため、少し疑問に思って検索すると、多くの情報が出てきます。弁護士は法科大学院ができて、数が増えすぎてしまい、年収300万円台の弁護士も珍しくなくなりました。無料メール相談をおこなっている弁護士事務所もあり、すぐに相談できます。
仕事があって普通なら扱わないような少額な案件や、通常は引き受けない、依頼人のためにならない案件も扱うようになりました。従業員が弁護士に相談するとやっかいです。労働基準監督署の「あっせん」などで、金銭解決すれば、30万円くらいの案件でも、「100万円くらい取れるかもしれません!」と従業員をそそのかして、案件を受注します。
そうすると、従業員は、解決金として50万円くらい貰えたとしても、結局弁護士費用が50万円かかり0円(クリニック側の支払額はこちらの弁護士代もかかるので合計100万円)、もし80万円貰えたとしても30万円(クリニック側は合計150万円)です。だったら、弁護士を雇わないで、最初から30万円貰っておいた方が得でしょう。
「弁護士から経営者をギャフンと言わせたい」という気持ちはわからないでもありませんが、まず従業員は事業主側と電話などで相談した方がお互いのためです。
医療事務や看護師の仕事ができて価値観の合うスタッフとは定期的にご飯を食べて、ストレスをはき出してもらい、日頃の感謝の気持ちを伝えるようにしています。
できれば、ゆっくり話しやすい個室もしくは他の人に話し声を聞かれない空間が良いです。もちろん、食事代はご馳走します。中には、勤務時間外のご飯などコミュニケーションをそこまで求めていないスタッフもいるので、そういった場合は本人の希望を優先させます。
いくら仕事ができて価値観が合う人間でも、高額な定期昇給のまま信頼しきっていると、やがては仕事をさぼったりやる気がなくなってきたりするのが人間です。常にお互いの緊張感がないといけません。
現在、新宿駅前クリニックでは定期昇給は1年ごとにありますが、それ以外に自分で働きを評価して毎月特別手当として追加で給与を上乗せすることもあります。
毎回上下するのはお互いの心理的には良くないので、だいたい同じ金額を上乗せしていますが、スタッフが少なく負担が大きい月には臨時で少し多く上乗せすることはあります。万が一、働きが悪くなったときや、トラブルが続出したときは、上乗せ分はなくすことになります。その緊張感により、常に評価されているという意識が必要になります。決して、高額な給与で口頭や書面での約束はしてはいけません。
3.急に辞めてしまう