医局洗脳からの脱却 5. 医学生、若手医師
へのメッセージ

医局洗脳力の低下とSNS

医局に所属すると専門医取得するまで辞めにくい ここ最近、特にここ5年くらいで、医局洗脳力が落ちてきているという実感があります。 10年くらい前に同じことを言っても、あまり相手にされなかった。少なくとも今よりも賛同を得ることはできなかったですが、共感してくれる医学生や若手医師も増えてきました。 働き方改革が医師にも波及して、テレビや新聞などでも報道されているだけでなく、XやYouTubeなどのSNSなどにより、医師の進路についての情報が発信され、より多くの医学生や若手医師に情報が届くようになったということも大きいでしょう。 大学ごとに医局の人材獲得競争が起きており、ブラックなA大学病院の○○科は人手が足りなくてハード、関連病院も遠方だからと敬遠されることもあります。 若手医師が洗脳されにくくなっているということです。 医局に所属していて大病院に勤務していると時給1000円で、クリニックに勤務していると時給1万円だったら、一般社会において時給1万円の方を選ばない方がどうかしています。 今までは時給1000円の道を選ばせていた医局の洗脳力は、絶大だったということでしょう。

若手医師はベテラン医師よりも優秀

医局に所属しているベテラン医師からすると、今の若手医師は根性がない、権利意識が強いなど、自分たちの世代とは感覚が違うというご意見もいただきます。 若手医師の中にはそのような意見に自尊心を傷つけられ、自己肯定感が下がってしまっている人もいます。 そんな医局に所属していて自信をなくして疲れ切っている若手医師に、私はエールを送りたいです。 昔に比べて医学部に合格するのは難しくなっていますし、進級試験も厳しさが増している中で、医師になった先生はそれだけで素晴らしいです。 60代のベテラン医師が医学部に入学したときは、日東駒専レベルの学力でも医学部に合格することができました。 特に私立医学部の学力はベテラン医師の頃よりも格段に上がっています。 < 「私立医学部の過去の偏差値」 医学部受験と再受験 > 私が医学部に合格したときと比べても、難易度がかなり高くなっています。 医局に所属して出世していくには、今までの受験勉強と違い、研究や上司に好かれるかなど別の尺度からの評価もあり、良い悪いは別としても医局が合う合わないかはあるでしょう。 モチベーションが低かったり医局が合わないと感じたりしているからといって、自分を責めるのはやめましょう。 都会にばかり医師が集中してしまい、医師不足になっている地域があるのも、日本医師会の言うことを聞いて、医師数を増やしすぎない政策を続けてきた厚生労働省のせいであり、今どきの若手医師のせいではありません。 医師免許を持っているだけで素晴らしいですし、私なんて医師免許と運転免許しか資格は持ってませんが、どうにか生きています。

医師が罹患しやすい
「目標達成病」という病

医師は元々洗脳されやすい以外にも、やり抜く力があるということもあるでしょう。 医学部に合格できるというのは、元々の記憶力や論理的思考能力など地頭の良さだけでなく、寝る間も惜しんで勉強することができるわけで、時には自分の心と体を犠牲にして頑張ることができる能力の持ち主、やり抜く力があるともいえます。 やり抜く力を持っているということは、目標を設定して達成することに悦びを感じるということでもあり、「常に目標を定めてなにかしなくてはいけない」という強迫観念すら持っている医師もいます。 私は身体や心を病むまで頑張ってしまう人を「目標達成病」に罹患していると考えています。 患者さんのことは大事ですが、自分を追い詰め過ぎず、まずは自分の身体や心が第一です。医学生や若手医師は罹患しないように気をつけましょう。

医局が自分に合っているのか見極める

既に医局に洗脳されている同級生や同期の医師の進路や価値観などに、影響を受け過ぎたり同調圧力に屈したりするべきではありません。 医局に所属するのが合っているのか?自分がその医局が合っているのか?それとも合ってないのか?自分の遺伝子を客観的に把握して、病院の勤務医をし続けるのか、将来はクリニックの開業医になるのか?検討して、臨床研修や専攻医の病院を決めるべきです。 私から言わせてもらえば、モチベーションが高くなかったら、無理してモチベーションが高い医師が集まるような医局に所属して、疎外感や苦しみを味わう可能性の高い進路にあえて突き進む必要はないでしょう。 医局によっても雰囲気は違いますし、モチベーションが高くなくても受け入れてくれる医局もあります。 開業医を目指しているなら、最終的には多くの医師がたどり着く開業医を目指して、最初からキャリアを積む方がいいと考えます。 「登る山を間違えてはいけない」というのは私の好きな言葉の一つですが、大病院の勤務医の山を登るのか?クリニックの開業医の山を登るのか?自分と向き合い全体を俯瞰してから考えることが大事です。

開業医というブラックボックスを知る

多くの医学生、若手医師にとって大病院の勤務医は身近であっても、クリニックの開業医という存在はブラックボックスでしょう。 特に家族や親戚に医師がいない家庭で育った医学生や若手医師は、病気のときに近所のクリニックに通ったことがあるくらいで、近そうで遠い存在です。 開業医になるタイミングは人それぞれでしょうが、最終的にはほとんどの医師は開業医になるもしく開業医と同じようにクリニックの外来をすることになります。 進路を決めるには、開業医の仕事を知っておくことも必要です。医学生なら実際にクリニックに見学しにいくのもいいですし、臨床研修終了後の医師ならクリニックのバイトも色々なところに行ってみるのも良いでしょう。

開業医で盛業したら幸せ
というわけではない

開業医で盛業したら幸せというわけではない 開業医になるということは、クリニックという事業をおこなうことでもあります。 勤務医時代よりも収入が増えることもあれば、収入が減ることもあり、経済状況によりライフスタイルも変わってきます。 クリニックが盛業して収入が増えると幸せを感じやすい傾向はあるでしょうが、必ず幸せになれるというわけでもありません。 私の友人にもクリニックが盛業していて、年収1億円を超えている開業医もいますが、そういった医師も皆が皆幸せというわけではありません。 患者さんをたくさん診療するのが好きではなく、収入は勤務医時代よりも少なくても自分のペースで診療していて、幸せな開業医もいます。 開業してからもモチベーション高く、開業医として診療するだけでは物足りなくて、医師会で出世を目指す開業医もいますし、自己啓発セミナーで自分やスタッフを高めようとする開業医、分院展開や趣味でレストラン開業する開業医もいます。 医師免許があれば、医師としての道は医局で出世していくだけでなく、開業医など色々な選択肢があるということを医学生や若手医師の段階で理解して、進路を決めていくことをおすすめしたいです。 医療需要>供給の地域で、開業すれば盛業間違いないにもかかわらず、漫然と医局に所属し続け、50歳になった頃に「当直もキツくなってきたからそろそろ退局して、クリニックでも開業するか」では、時給3万円のところを時給3000円などで働いていたことになるわけで、経済的にも大きな損をしていてもったいない気もします。

盛業しても褒めてくれるのは
配偶者と税理士だけ

開業医は医局に所属しているのと違い、キャリアを積んでステップアップしていくわけではありません。 他人から評価されることもなく、事務や看護師のスタッフはクリニックが盛業すればするほど忙しくなり心が離れていきがちですが、患者さんが増えても褒めてくれるのは配偶者と、売上と経費を把握している税理士の先生だけです。 競争するとしても地域のクリニックの開業医数人で、今までは他人と比較して競争してきた医師の中には、孤独や物足りなさを感じる人もいるでしょう。 クリニックの経営が安定したら生活していく上では経済的に困らないわけで、結局、自己満足の世界で生きていくことになります。

開業医の先行きは明らかに暗い

ここ数年はインフレの影響により、内装費、医療機器、家賃、医療事務の給与は上がっており、保険点数はほぼ横ばいと変わらないため、開業医の収入は悪化しています。 日本国内の人口は2008年の1.28億人をピークに減り続けています。逆に、医師数は増え続けておりそれに伴いクリニック(無床診療所)数も増え続けています。 将来のことはわかりませんが、このまま人口が減り無床診療所が増え続けると、1無床診療所当たりの患者数は2020年と比べると2040年には約7割、2060年には約5割まで半減してしまう可能性があります。 国内の人口と無床診療所の推移

1980年 1.17億人 約5万軒 2000年 1.27億人 約7.5万軒 2020年 1.26億人 約9.5万軒←1軒当たり約1320人 2040年 1.1億人? 
約11.5万軒?←1軒当たり約960人で2020年の7割強 2060年 0.87億人?? 
約13万軒??←1軒当たり約670人で2020年の半分

売上が半減してしまうと、開業医の収入は半減するのではなく激減します。

2060年にはクリニックバイトの
時給2500円になる?

2060年にはクリニックバイトの時給2500円になる? 具体的にクリニックの売上が半減すると、クリニックの利益はどのくらいになり、クリニックバイトの時給はどのくらいになるか計算してみましょう。 内科クリニックの平均的なモデルケースとしては、売上5000万円 経費3000万円(医療事務3名+看護師2名+家賃+その他) 開業医の収入2000万円ほどですから、2000万円÷年間診療日数250日÷8時間=時給1万円がざっくりした計算になります。 開業医の収入からクリニックバイトの医師の時給が決まっています。 2060年頃、1クリニック当たりの患者数が半減したとしたら、事務1名、看護師1名、その他をどうにか削ってシミュレーションしてみると、5000万円の半分の年間売上2500万円 経費2000万円(医療事務2名+看護師1名+家賃+その他) 開業医の収入500万円ほどで、医師のバイト先の時給2500円という計算になります。 あくまで理屈上の話で、さすがに時給2500円になることはないでしょうが、歯科医師のクリニックバイトの時給は2500円〜ですから、あり得ない話ではないでしょう。 上記のように1クリニック当たりの患者数が減るだけでなく、保険点数の下落、インフレ、リフィル処方せんの拡大、花粉症薬や湿布などの保険適用の除外なども今後考えられ、益々開業医は厳しくなっていく可能性が高いでしょう。 クリニックレベルにおいては、技術的にはオンライン診療で多くの病気の診断や治療ができることが、コロナ禍を通してわかりましたし、オンライン診療も少しずつですが増えています。

私の考える究極の医師偏在対策

私の考える究極の医師偏在対策 2060年にはクリニックバイトの時給2500円説を書いたついでに、究極の医師偏在対策についても考えてみました。 開業医をしている私がいうのもなんですが、クリニックの診療報酬を大幅に下げることです。 医師が偏在してしまっている理由としては、大病院の勤務医からクリニックの開業医になる経済的な合理性が高すぎるというのが大きいです。 大学病院の教授が時給5000円(年収1000万円)、助手が時給3000円(年収600万円)であれば、クリニックバイトの医師の時給を2500円(年収500万円)〜になるように保険点数を調整します。 上記の例と同じように売上(診療報酬)を半分にすれば、時給2500円になります。 安すぎると感じるでしょうが、国立大学病院の教授や助手は現在の国家公務員の給与に準拠しており、世の中一般からすれば、開業医の時給が高すぎる方が異常なのです。
そんな時給が安ければ、医師が医者をやらなくなるという意見もありますが、医師は医者しかできないですから、歯科医師が歯医者を辞めないように医者を辞めることはあまりないでしょう。 そうすれば、開業医になる医師が減り、開業するにしても医師不足の地域で開業されやすくなりますから、医師不足が解消されていきます。歯科クリニックにおいては医師不足は解消されました。 私も含めクリニック激戦区においては多くの開業医は淘汰されてしまいますが、大病院の勤務医に戻ったり、医師不足の地域でクリニックを新たに開業したりして、医師偏在も解消されていきます。 どのように診療報酬を下げるかも簡単です。初診料、再診料、検査料や判断料などを1点10円から1点5円に変更するだけで売上が半分になります。
急に下げるとショックを起こすので、1年に0.5点ずつ下げて10年で5円になりますから、10年間のうちにクリニックを閉めたり、医師不足の地域に移転することができます。 クリニックの診療報酬を下げるということは、クリニックを運営している自分にとっても大打撃になりますし、決して望んでいる未来ではありません。そうならないことを祈っています。

日本維新の会が政権を握ったら

実際にそんなことはあり得ないとお考えの人ばかりでしょうが、私はドラスティックに診療報酬が変わる可能性もあると考えています。 そのきっかけの一つは日本維新の会が政権を握ったときと想定しています。 日本維新の会(にほんいしんのかい)と日本医師会(にほんいしかい)は「ん」と「の」があるかないかの違いですが、日本維新の会は社会保険制度改革を叫んでいます。
禁断ともいわれる75歳以上の高齢者の窓口自己負担3割を提言していますし、儲けすぎと開業医が攻撃されて開業医の解体ショーがおこなわれることになるでしょう。 < 「医療制度の抜本改革(医療維新)に向けての政策提言書」 日本維新の会 >

勤務医の給与水準を引き上げ、開業医の所得は適正化することで
待遇格差を是正する診療報酬の体系の見直しを行う。

と書かれていましたが、いったいいくらになるのでしょうか?

大学病院の勤務医(教授)の時給は
5000円→1万円 大学病院の勤務医(助手)の時給は
3000円→6000円 大学病院の開業医は時給1万円→5000円

くらいでしょうか。怖さしかありません。 皆さん、日本維新の会が政権を握る前にできるだけ早く開業しておきましょう。

私は開業医になって人生変わりました

私は開業医になって人生変わりました 私は2009年に28歳で医療事務1人看護師0人で開業して、5年目で1日平均400名、2017年くらいのピークには1日平均500名ほどの患者さんが訪れるクリニックになりました。
開業医になってから時間に余裕ができたからこそ妻と出会うことができ、今では5人の子供にも恵まれて、若くして開業医になって本当に良かったと感じています。 もし医局に所属していて40歳過ぎて開業していたら、2024年現在、クリニックは1日200人から300人ほどと競争激化などにより患者数が半減していることからも、経済的にも子供を5人授かることは難しかったでしょう。 父のような医局に所属して教授を目指すという王道とは対局な道でしたが、患者さんがスマホで病院を探す時代となりその波に乗れ、運が良かったこともあり、こうしてお節介な性格もあって趣味としてクリニックコンサルタントをやってます。 医局洗脳というセンセーショナル?な言葉を使いましたが、私のように医局で出世していくことのできない人間、手先が器用でなくて手術が上手にできない人間(小学校のときの図工の通信簿が5段階中2〜3でした)でも生きる道があるということも伝えたかったです。 もし来世があって教授を目指せるほどの頭脳を持って生まれてきたら、教授を目指したいと思うこともあります。 適材適所という言葉がありますが、医学生、若手医師の方々は、自分の遺伝子に合った働き方、生き方を選んで、是非幸せに生きていってください。 医学生や若手医師の方で進路やクリニック開業などについてお悩みなら、気軽にご相談ください。
この記事を共有
  • シェアボタン(facebook)
  • シェアボタン(twitter)
医局洗脳からの脱却