医局洗脳からの脱却 3. 医局洗脳の弊害と
洗脳が解けるとき

医局に所属するとなかなか
辞めることができない理由

医局に所属するとなかなか辞められない理由 医局は「臨床」「研究」「教育」の3本柱の役割があり、大学病院や関連病院での患者さんを診療する「臨床」は義務としておこなった上で、医局で出世するには、「研究」をして論文発表することにより評価されます。医局は「臨床」「研究」以外にも、医学生、臨床研修医、専攻医、医局員への「教育」もしていく必要があるわけですから、時間をかけて教育してもすぐに退局してしまったら困ってしまいます。 教授や医局長の許可なくして退局は許されないという雰囲気になるのは、ある意味当然でしょう。 昔、同じ病院で働いていた医局に所属していた大学院生の医師は、「医局はヤクザの組と同じ」だと嘆いていたことがありますが、一度組織に入るとその性質上、なかなか抜けれないというのはあります。 ヤクザと違い、医局を抜けると指を詰めたり破門・絶縁処分されたりするわけではありませんが、医局を変えることは勇気がいりますし、ケンカして退局した場合は、学会でも顔を合わせて気まずいというのはあるでしょう。

医局洗脳状態のままでの開業の弊害

専門医を取得してから開業するべきか? 医局に所属し続けて、医局洗脳の状態のままでのクリニック開業することの弊害もあります。医局に所属していて大病院に勤務していると、高度な医療機器が揃っており今までの経験も活かしてその延長線で考えてしまい、クリニック開業する際にも高度な医療機器を導入し、より専門的な医療を提供したい気持ちになります。 特に、モチベーション高く優秀な医者ほどその傾向にあります。 たとえば、ニーズがそこまでない地域で、多額の借金をするなどして高額な医療機器を購入した場合、その分、採算ラインが上がってしまうため、毎日より多くの患者さんを診療し続けなくてはいけなくなります。 退局前と開業後では、仕事に対する価値観が変わることも少なくありません。環境の変化が自分の価値観を変えることになります。 盛業している規模の大きなクリニックの院長が突然クリニックを閉院して引退したり、第三者に譲渡したりすることが時々ありますが、多くの患者さんを診療し続けるのが嫌になるケースもあります。 他にも、診療報酬5000万円以内を想定とした医師優遇税制度を使用したクリニックを開設するのか?それとも、使用することができないほどの規模の大きなクリニックを開設するのか?によって、診療時間や診療日数なども大きく変わる場合もあります。 規模の大きなクリニックを開設すると、盛業していたとしても、クリニックのスペース、高度な医療機器、スタッフの雇用もありますから、なかなか診療時間や日数を縮小することはできません。

60歳くらいのモチベーションを
想定して開業する

年齢を重ねていく中で、体力的にも精神的にもキツくなってしまうこともあります。例えば、40歳で開業するとなると、開業したばかりのモチベーションの高い40歳の時点でしか診療を想像しにくいものです。 しかし、40歳から80歳まで開業していたとすると、年齢を重ねるにつれて徐々にモチベーションは下がってくることが多く、平均の60歳くらいのモチベーションを想定して開業した方がいいという考えもありますが、それを想像しながら開業準備するのはなかなか難しいのが現実です。

医局で出世してから開業することの弊害

他にも医局で出世してからクリニックを開業することの弊害もあります。 医局に所属している間は、患者さんは大学病院の教授や総合病院の部長という肩書きで集まっているわけですが、開業すると他の開業医と同じ土俵でゼロから競争することになります。 大病院の勤務医を観察していると、「自分は他の医師よりも腕がいいから患者さんが集まっていて、クリニックを開業したら自分に患者さんが集まるに違いない。」と勘違いしていることもよくあります。 実際には、大病院の信頼で患者さんが集まり、高度な医療機器があるから質の高い医療ができている。というのが現実です。 クリニックを開業したら、なにも信頼がない状態で開業するわけですから、最初は口コミもなく、通りがかりやネットで患者さんが集まり、クリニックレベルの医療機器で診療することになります。 開業して初めて、自分は他の医師よりも腕がいいから患者さんが来ていたわけではなかっことに気づきます。 医局で出世してから開業した医師の失敗事例としては、都心部のクリニック激戦区で、単科で1日100人以上の来院があることを想定して、広さは50坪超で年間2000万円以上、医療機器もたくさん買って、借金1億円以上して個人開業しました。 数年経過しても1日50人以下と大苦戦しており、撤退も噂されているようです。 本当に地獄なのはクリニックを撤退した後で、医師であるために自己破産できない場合、残った借金1億円を返すために70歳過ぎるまでクリニックでバイトしながら働き続けなくてはいけない計算です。 医局で出世した医師の多くがそのようになるわけではありませんが、自分ならイケるというおごりもあったのでしょう。

開業医になるという異世界転生

専門医を取得してから開業するべきか? 大病院の勤務医からクリニックの開業医になるということは、ロールプレイングゲームでいえば戦うフィールドが変わるくらいの感覚でいるかもしれませんが、異世界転生するくらい大きく変わります。 ドラゴンクエストで例えると、大病院で働いているときは、高度な医療機器があるレベル50くらいの装備、精鋭のチームで戦っていたのに、開業して異世界転生してしまったら、開業準備中は物件を借りたりスタッフを雇用したりすることなど初めての経験ばかりで、装備はほぼなし(自前の聴診器くらい?)のレベル1、チームには誰もいない状態からスタートします。 医師免許という担保によって銀行から借金することができ、武器や防具屋でレベル10の装備を購入して、皮の帽子、皮の鎧、皮の靴、皮の盾しかない状態、スタッフも最低限の人数を雇用してあまり強くないチームで戦うことになります。 開業医の異世界では装備には決まりがありレベル10までが上限で、多くは開業したときと同じ装備やチームで戦い続けていくことになります。 中小病院の1人医長であっても、大きな手術はできないにしてもCTやMRIがあるため、レベル30くらいはあるでしょうから、かなりのギャップを感じることになります。 最初は資金不足で医療機器を十分購入できず、レベル3くらいの最低限の装備である布の帽子、布の鎧、布の靴、盾なしの状態で冒険を開始する場合もあります。

大病院のベテランチーム 装備はレベル50 パーティーのメンバーは精鋭 ↓ クリニックのチーム 装備はレベル10 パーティーのメンバーはあまり強くない

今まで強いボスを倒していた人が、毎日弱い装備でスライムばかり倒し続けていたら、飽きてしまう人もいるのも当然でしょう。 まれに、盛業したことにより、CTなどの高度な医療機器を導入して、装備がレベル20までパワーアップしているケースもありますが、レアです。

洗脳状態が続き、
開業が10年遅れると3億円損する?

医局洗脳により洗脳状態が続き開業が遅れてしまうと、遅れた分だけ損します。特に需要>供給の地域で忙しく働く勤務医ほど、その地域で開業すればその分稼ぎやすいため、損しているということになります。 都心部で働き続けたいということであれば、「患者さんがあまり来ないリスクもあるため、絶対にクリニックを開業した方がいい」とは思いませんが、地方であれば、需要>供給の地域でゴロゴロあり、盛業間違いないといわれる地域も少なくありません。 開業して年収5000万円だったとすると、35歳で開業するところを医局に所属し続けて45歳で開業した場合、10年間の給与は年収2000万円とすると、10年間開業が遅れたら、(年収5000万円−年収2000万円)✕10年間=3億円も損するという考え方もできます。 人間は若いときのほうが体力もありますし、クリニック数は増え続けており、1クリニック当たりの患者数は少なくなっており、クリニックを取り巻く環境も厳しくなってきています。 開業したいなら、需要>供給の地域であれば直ぐに開業することをおすすめします。

● コンコルドの誤謬

私はコンコルドの誤謬(ごびゅう)の話が好きです。 < 「コンコルドの誤謬(ごびゅう)」 asana > 人間は今まで積み重ねてきた努力を過大に評価する傾向にありますし、医師でいえば、今まで投資してきた技術を捨てることはなかなかできません。 大病院で身につけた技術、難易度の高い手術ができる技術があったとしても、クリニック開業においては必要とされてない手術だということがわかれば、今までの積み重ねてきた努力に引きずられることなく、無理にその技術をクリニックに導入するべきではありません。 手術に必要な医療設備とメンテナンスのコスト、手術をするスペースとスタッフが過剰な投資となってしまい、経営を圧迫してしまうこともあり、経営が苦しいせいか、適応ではないのに手術をしているクリニックもあります。 中には、医局に所属していたこと自体がコンコルドの誤謬となってしまうこともあり、なかなか医局から抜け出せなくなってしまう医師もいます。

● 開業する前に医局洗脳を
解くにはどうしたらいいのか?

医局洗脳された状態で開業するのは弊害があるということであれば、開業する前に医局洗脳を解きたいところです。 どうしたらいいのか?その答えは、退局したらすぐに開業するのではなく、非常勤で様々なクリニックに勤めてみることです。 フリーランスの医師として、医局と違い誰からも評価されることもなく、自分と向き合うことができます。 一度開業したら、その地域の患者層や診療スタイルを変えることは難しいですから、患者層や診療スタイルの異なるクリニックで診療を経験することができます。 自分がどのような診療をしたいのか?自分と向き合う時間的な余裕もできます。 医局に所属しているときでも、外勤のアルバイト先もできるだけ多くのクリニックを経験できるといいでしょう。 予想と実際は異なることも多いものです。

● 開業医は勤務医の30年後の自分

開業医になるとモチベーションが下がるというと、ネガティブなイメージもありますが、医局というシステムから離れることにより、その人本来の持っているモチベーションに戻るという表現の方が近いかもしれません。 開業したら目標を他人から設定されることもなく、どのくらい働くかも自由です。 中には、開業医でもモチベーション高く、休診日をあまり設けることなく朝から晩まで働いている医者もいますがごく少数派です。多くの開業医は、朝から晩まで働くことはなくなり、1日7〜8時間、週4.5日のみ診療して、休診日、土曜日午後、日曜日は趣味や家族の時間を楽しむようになります。 医局に所属している医師からすると、開業医はモチベーションの高くない医師ばかりに見えるかもしれませんが、将来的には、医局に所属している医師の多くも開業医になります。もしくは、時給1万円前後のクリニックの外来診療する医師になります。 人は環境によって影響を受ける動物であり、開業医のほとんどは元々は医局の先生だったわけで、開業後の自分だったりするかもしれません。

● 定年退職後に職場が見つからない
という弊害

65歳くらいで医局を定年退職になると、当直するのも年齢的に厳しくなり、医局の関連病院で働いていた医師も第一線から外れることになります。 人間の寿命が長くなったことにより、定年退職後の65歳から医師として引退する80歳くらいまでどうするか?という問題が出てきます。 主任教授になるなど医局で出世して、関連病院の院長などに天下りすることができればよいですが、主任教授ですらあまり良いポストがないこと場合もあり、結局クリニックで外来診療することも少なくありません。 定年退職後、流石に開業することは少ないですが、病院やクリニックの外来、訪問診療などをおこなうことになります。 開業医になるというのは、定年退職する年齢になっても自分のペースで働くことができるという要素もあります。

● 開業医のデメリット

開業医のデメリット 医局に所属し続けることのデメリットばかり書いてしまいましたが、もちろん開業医のメリットだけでなくデメリットもあります。いくつか挙げてみましょう。

開業医になると5年目くらいで
モチベーションが下がる

開業医になると5年目くらいでモチベーションが下がる 医局というシステムの中で、医者はモチベーションの高い状態であったとしても、退局して医局というシステムから離れると、徐々に洗脳が解けていきます。 最初は勤務医の頃よりも収入が高くなりますが、勤務医が開業した場合の年収の例としては

勤務医 時給0.5万円(年収1000万円) ↓ 開業1年目 時給0.5万円(年収1000万円) ↓ 開業2年目 時給1万円(年収2000万円) ↓ 開業3年目時給 1.5万円(年収3000万円) ↓ 開業5年目 時給2万円(年収4000万円) ↓ 開業6年目以降 時給2万円(年収4000万円)

上記でいえば、開業5年目までは収入が上がり続けていて、モチベーションが高い状態が続くのですが、開業5年目以降は時給2万円と横ばいになるわけで、収入が高い状態に慣れてくるとモチベーションが下がってきてしまいます。 収入が上がることにドーパミンは反応して、収入が安定してしまうと脳内物質のドーパミンが出にくくなっていくわけで、毎日同じ繰り返しで飽きた。刺激が足りないなどと感じる人もいます。

⚫︎ 医師は診療するのが
本当は嫌いな人が多い?

私は今までに色々な医師を見てきましたが、診療するのが本当は嫌いな医師が多いです。 そもそも医師になる人は大学受験で医学部に合格しなくてはならず、記憶力がよく勉強を続ける持続力があり、内向的な性格である割合が高く、もっというと、医師はASD(自閉症スペクトラム)傾向がある人の割合が高く、コミュニケーションが苦手な人も診療しています。 < 「こころの先生クリニック」 精神科専門医研修施設 > 開業医としての適性と大学受験の選抜方法があまりマッチしてはいないということでしょう。 医学教育で矯正することは限界はあるでしょうが、医局洗脳することにより患者さんを長時間診療させることができているわけですから、ある意味それはそれで矯正がうまくいっているという側面もあります。 ASD傾向の医師は患者さんとスタッフとのコミュニケーションが苦手という面で、ADHD(注意欠如多動症)傾向の医師はクリニックで単調な診療をし続けていくのが苦手という面で、開業医に向いてない確率が高いのではないか?と考えています。 4.医師優遇税制活用で開業リスクを最小限にする
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