私は専門医を取得しないで開業したこともあり、医学生や若手医師から「専門医を取得してから開業すべきか?」という質問をされることがあります。
専門医というのは、医療設備の充実している大学病院や総合病院で勤務医として診療していく際に必要な知識であり、正直な話、CTやMRIなどの医療設備が充実していないクリニックで開業医として診療していくには専門医試験で出題されるレベルの知識は必要としないと感じてはいます。
残念ながら、せっかく身につけた知識も開業医をしていると使わないため、忘れていってしまいます。
実質的には、専門医制度は医局に所属してもらい、大学病院や総合病院の医師を確保するためのシステムで、専門医取得という人参をぶら下げられているわけであり、専門医制度がなければ、医局に所属する医師はかなり少なくなることでしょう。
昔は学会に所属していただけで、専門医試験を受けることなく専門医になることができましたが、うまいシステムを考えついたものです。
医学生や臨床研修医時代にクリニックで専門医を持つ開業医の先生の診療にも同席させてもらったことがありますが、最初は驚きました。
採血やレントゲン検査などは行わず、簡単な問診と診察だけで患者さんを診断しますし、私の方が鑑別診断をたくさん考えることができる?と感じることもあり、クリニック開業は専門医になるために必要な知識は使わないことがよくわかりました。
医者3年目の専攻医がクリニックの外来でバイトしていて、特に大きなトラブルになったとは聞いたことがありませんし、医局もクリニックの外来でバイトできると判断しているからこそ、バイトを認めているのでしょう。逆にクリニックの外来する能力のない医師を派遣しているとしたら、それはそれで問題です。まさか外勤先のクリニックの外来に必要な能力のない医師を派遣してませんよね?
逆説的にいうと、クリニックの外来には医師4年目(専攻医2年目)の医師を派遣しているので、医局に1年所属して大学病院や関連病院で働いていれば、クリニックで診療する技術が身についているということです。 ちなみに、臨床研修が始まる前は、臨床研修も受けてない医師1年目もクリニックの外来や中小病院の当直を1人でこなしていました。 例えばですが、内科専門医の資格を持っている人柄の良い内科医の先生が、皮膚科も診療している場合と、皮膚科専門医の資格を持っている人柄の悪い皮膚科医の先生が、皮膚科を専門的に診療している場合、皮膚科診療における患者さんの評判は内科医の先生の方がよいです。 実際に、内科専門医を持っている内科医が内科だけでなく小児科、皮膚科などを標榜している開業しているクリニックはたくさんありますし、専門医を取得していない科目の診療しているのが現実です。
質問の回答としては、専門医を取得せずとも盛業している開業医はいくらでもいますが、専門医を取得したいのであれば取った方がいいでしょう。複数科を標榜して診療するのではなく、単科で専門的な診療するなら、なお取っておいた方がよいかもしれません。
医局に所属して、同期や同門の医師から、「専門医を取らないで開業した」と揶揄されるのが嫌なら、取った方がいいと答えています。私はそれらを見越して医局には最初から入らなかったので、揶揄されることはありませんでしたが、医局に所属するということ自体、自動的に少なくとも専門医取得するまでは辞めにくい、退局しにくいというシステムに組み込まれるということになります。
もちろん、開業しないで医局に所属して大病院で働き続けるのであれば、専門医取得は必須でしょう。出世するためには学位や留学経験もあった方が有利です。まとめると、専門医の資格は大病院で専門領域を診療することを担保するために必要な資格であり、クリニックでは専門医を持っていない医師が診療している現実があり、あまり関係がないというのが実際です。
新専門医制度では、医局の基幹病院(大学病院本院など)が、専門医機構が認定したプログラムに基づいて研修を行います。専門医を取得したい若手医師は医局に所属し大学病院や医局の関連病院で働くことになり、関連病院でない病院には所属しない方向性に誘導されています。専門医制度を利用して、医局は関連病院以外が医師を養成するのを阻止して、開業するのをできるだけ遅くして、医局の権力を維持したいという意図を感じます。
新専門医制度については反対意見も少なからずあるようですが、医局VS医局の関連病院でない病院という権力闘争の構図があるのです。
臨床研修2年間以外にも、基本領域の専門医を取得するのに3年間以上かかりますし、基本領域の専門医を取得してからサブスペシャリティーの専門医を取得するという二段階で、医局に所属することを長引かせるシステムになりました。
< 「医師の偏在を助長?医療界が
大揉めする『新専門医制度』」 Answer NEWS >
新専門医制度については反対意見も少なからずあるようですが、医局VS医局の関連病院でない病院という権力闘争の構図があるのです。
科目や地域にもよりますが、おそらく年に新規患者さんが数人レベルではプラスでしょう。専門医を持ってないよりも、近くに競合ができる可能性は少しは下がるかもしれません。ただ、専門医を持っているから患者さんが来るわけではないですし、専門医を持ってないから患者さんが来ないというわけでもありません。診療力があることは当然のこととして、開業医はコミュニケーション力や持続力などの人柄も大事です。
クリニックにおいては、専門医を持っている20年目のベテラン医師で人柄が普通の医師と、専門医を持っていない5年目の若い医師で人柄が良い医師であれば、後者の方が評判はいいですし、クリニックを開業すれば後者の医師の方が盛業します。
いずれにせよ日々知識をアップデートしていくため、勉強は続けていく必要はあります。私は患者さんから一度だけ「専門医持ってないんですか?」と聞かれたことがありますが、特に困ったことはありません。
私が開業している新宿では、専門医を持っていて輝かしい経歴の開業医や、東京大学医学部卒業や東京大学病院の医局出身の開業医がゴロゴロいるわけですが、どうにか生き残っていることがそれを証明しています。 難しい患者さんは専門医を持っている開業医のところに行ってくれているでしょうから、専門医を持ってないことに感謝の念すらいだくこともあります。
ちなみに、私は内科、皮膚科、泌尿器科のクリニックを運営していますが、3科目全ての専門医を取得することは臨床研修終了後に10年以上かかってしまい、実質不可能です。なお、専門医を持っていれば、同科目や他科目の医師からは患者さんを若干紹介されやすいので、手術や難易度の高い処置などをする特殊なクリニックを開業するのであれば、持っていた方がいいでしょう。
意外にも専門医取得することによるデメリット、弱点もあります。 特に内科を開業した際に、専門医を持っている専門領域以外の患者さんから選ばれにくくなるということがあるのです。 内科開業する上で呼吸器内科や消化器内科であれば、内科の中でも患者さんの比率が高いから良いのですが、患者さんの比率の低い専門領域、具体的にいうと神経内科、膠原病内科、血液内科などの内科の中でもマイナーな科目の専門医資格をホームページに掲載しておくと、比率が高い呼吸器疾患や消化器疾患などの患者さんに敬遠されてしまいがちです。 内科専門医が内科と皮膚科、内科専門医が内科と小児科、泌尿器科専門医が泌尿器科と内科を標榜した場合、複数科目を標榜すると他の科目が弱くなるというデメリットがあります。
開業する際に、単科目で開業するのか?複数科目で開業するのか?クリニック名などによっても影響の仕方は変わります。 また、専門医資格を更新するには、定期的に講習会に参加する必要があり、お金と時間がかかります。遠方の学会に参加しなくてはならないこともあり、端から見ていると専門医を持っている先生方が気の毒です。
内科、小児科、皮膚科などトレーニングするという観点で言えば、総合診療科や家庭医の養成コースなどで勉強する方がいいかもしれません。
私が医学生の頃から、医局に所属している医師から「専門医を持ってないと保険点数が低くなる」と、よく言われていました。しかしながら、私は、将来専門医を持ってないと保険点数が低くなる可能性は低いと考えています。 医師過剰の都心部であっても医師不足の地方であっても、多くの開業医は専門医を持っていない科目でも診療していますし、専門医を持っていた開業医でも更新していない開業医も少なくなく、特に医師不足の地域では立ち行かなくなります。 クリニック10万軒のうち、内科標榜は6.4万軒、小児科標榜は2万軒、皮膚科標榜は1.2万軒と多くの開業医は専門医を持っていない領域も診療して、地域の医療を支えています。
片頭痛の予防注射などのように、ごく一部の専門的な治療は専門医資格がないと取り扱えないということはあり得ます。
唯一例外なのは、精神保健指定医であり、内科医がメンタルクリニックを開業して精神科薬を乱発するのを防ぐのためか、点数に差がつくようになりましたので、精神科医は精神保健指定医を取得した方がよいでしょう。
3.医局洗脳の弊害と洗脳が解けるとき