医局洗脳からの脱却 1. 医局洗脳が完成するまで

医局は「医者のモチベーションを上げる最強のシステム」

医局は「医者のモチベーションを上げる最強のシステム」

医師の先生方は医学生のとき、夏休みや冬休みなどの長期の休みに何をしていましたか?試験勉強をする必要やバイトをしていなければ、多くの医学生は、部活や趣味などを楽しんでいたことでしょう。 学生の頃は医学の勉強そっちのけで遊んでばかりで、青春を謳歌していた医学生も、医師国家試験に合格して医師となり医局に入局すると、医局というシステムの中で、時給換算すると1000円以下で朝から晩まで働き、当直がある場合は何十時間も寝ないで働くようになります。

医局に所属せずにクリニックの外来で働ければ、残業なしで時給1万円ほど10倍以上の収入があるはずなのに、医師自ら率先してそのような道を選んでいきます。医局には大学病院所属のブランドと肩書き、専門医試験、学位など、医局に長く所属していれば医師としてのキャリアを積める仕掛けがあります。医局は「医者のモチベーションを上げる最強のシステム」であり、凄い仕組みです。

医師としてのキャリアの王道

医師が医局に所属し続け、教授を目指す医師としてのキャリアの王道を振り返ってみましょう。

中学受験もしくは高校受験

大学受験

進級試験

医師国家試験

専門医試験

助手

講師

准教授

教授

上記のように、受験や試験を突破してきた医師は、常に親や教師から与えられた課題をこなし目標が設定されて、小さい頃から実際に課題をこなして目標達成してきました。受験戦争の世界では常にクラスメイトと競争しながら医学部に合格して目標達成してきましたし、医局の中では医局員と出世競争するなど、常に他人と競争しながら努力してきました。

医学生は医局員、臨床研修医は専攻医や医局員、専攻医は医局員、医局員は教授に指導を受けて、「医局で出世して教授を目指すことが医師としてのキャリアの王道であり素晴らしい」という価値観に染まります。

医学部に合格できる人は
医局に洗脳されやすい?

医学部に合格できる人は医局に洗脳されやすい?

現在の大学受験制度において医学部に合格できる人は、「記憶力」「論理的思考能力」などの頭の良さだけでなく、与えられたことに対して特に疑問を持つことなく勉強し続けることができる「持続力」がある遺伝子を持っている人が集まっているという側面もあります。

医師は医局から与えられた業務に対して疑問を持つことなく努力し続けることができる遺伝子を持っていて、医局に洗脳されやすい傾向もあることでしょう。業務を受験勉強の延長線上と考えるなら、親や教師から与えられた課題から、医局の先輩や医局長から与えられた業務に変わったというわけです。

人事権という生殺与奪の権を持つ教授

医局という主任教授を頂点としたヒエラルキーの中で、大学病院の本院、大学病院の分院、関連病院の大病院、関連病院の中小病院の人事権という生殺与奪の権を持つ主任教授には権力が集まります。自分も教授になりたい。少なくとも大学に残り出世したいと、考えるのは当たり前でしょう。医局に入ってからも他の医局員と競争してきて、権力闘争が繰り広げられるわけです。

教授に権威を感じさせているのはいったい誰でしょうか?医局員、製薬会社や医療機器メーカー、関連病院の経営者などが挙げられます。

● 医局員

教授には人事権という生殺与奪の権を握られており、関連病院の医局員も従属しています。

● 製薬会社や医療機器メーカー

大学病院だけでなく関連病院にも影響があり、昔は接待が凄かったです。

● 関連病院の経営者

関連病院の経営者からすると教授は医局に所属している医師を安定的に安く供給してくれます。関連病院の経営者からすると、教授は人材派遣会社の社長のような立場ですが、優秀な医局員を派遣して欲しいところです。

医局員→助手→医局長→講師→准教授→教授というピラミッド構造の中で、医局員は「頑張り続ければ出世して生き残ることができるかもしれない」という希望を胸に、激務をこなしているのです。

教授を目指すのは
止めたほうがいいのか?

冷静に考えると、主任教授が入れ替わるのは10年に一度くらいで、毎年医局員が5人ほど入局するとすると、50人に1人の確率で主任教授になれるという計算になります。年齢の近いライバルの医師が優秀だったら出世しにくいという運の要素も大きくなります。

全員が全員教授を目指しているわけではないにせよ、研究が好きで得意、長時間働き続けることができるという能力も必要でしょう。

医局を操っているのは誰か?

医局を操っているのは誰か?

大学の経営者は医局制度を採用して、教授を選考する際にも大きな影響力があります。関連病院となっている大病院の経営者も医局から医師を派遣してくれるので、大学の経営者には頭が上がりません。
医局を操っているのは誰か?ということになれば、本質的には人事権を握っている教授を生み出している大学の経営者とその関連病院の経営者ということになります。

医師不足の地域であれば、本来なら時給1万円近くの給与を出してもとなかなか来ない病院であっても、安定的に格安の給料で雇用することができます。

開業医を馬鹿にしている
医局に所属している医師

なお、医局に所属している医師>医局に所属していない医師>開業医という順番で医師として優秀、立派であると洗脳されます。 よく考えてみると、開業医の多くも昔は医局に所属している医師でしたし、医師としての本来の能力はそこまで変わらないでしょうが、開業医のことを馬鹿にしている医局に所属している医師は非常に多いです。

医局に所属している医師の中には、紹介状の返書で開業医の診療を馬鹿にした内容を送りつけたり、直接電話で開業医に文句を言ったりしている医師もいます。

そのような医師を恐れていて、紹介する必要がある患者さんをなかなか紹介しない開業医がいるのも事実です。たしかに責任も大きいですし、医療設備という観点からも、大学病院は高度な診療をしており、高度な医療を提供している順に、大学病院>病院>クリニックという要素はあるでしょう。

大学病院は患者さんにとって最後の砦でもあり、大学病院で外来を診療できるレベルになるには、幅広い知識と経験が必要であり習得するのが早い科でも本来なら5年以上はその科の研修が必要で、自己研鑽に励んでいることもよくわかります。

世の中、すべて大学病院や大病院だけだったら、高度な医療設備を必要としている患者さんを診療することができなくなってしまいます。

医療設備の充実していなくても、クリニックは家の近くにあったり待ち時間が短かったりと利便性が高く、それぞれの役割分担があり、厚生労働省も大学病院や大病院はクリニックからの紹介がなければ受診しにくいように仕組み化しています。開業したら自分もそのように言われるようになるだろうし、馬鹿にしている開業医は30年後の自分かもしません。

クリニックバイトは
本来の時給はいくらであるべきか?

国立大学医学部教授の国立大学の職員としての給与は時給5000円(年収1000万円)、助手は時給3000円(年収600万円)とすると、大学病院の助手の方がクリニックバイトよりも技術や経験が必要とされるため、クリニックバイトの時給は2000円(年収400万円)くらいでもおかしくない気もします。

実際には、クリニックバイトのおおよそ時給は1万円ほどですが、日本全国の内科クリニックは1日40人で売上5000万円、経費3000万円(看護師2名、事務3名で2000万円+家賃、光熱費、検査原価などで1000万円)院長の給与は2000万円が基準ですから、時給1万円という計算になります。

ちなみに、歯科医師だと歯科クリニックバイトの時給は2500円や3000円くらいのところもあります。将来的にはクリニック数が増えて人口が減れば、1クリニック当たりの患者数が減り、売上が半減すれば、計算上は歯科医師と同じように時給は2500円〜3000円くらいに減ってもおかしくはありませんが、まだまだ先の話でしょう。

開業医の保険点数が恵まれていることが、技術や経験がより必要な病院勤務医よりも、クリニック開業医の方が時給が高いという矛盾が生じているのです。

高度な医療を提供したいなら
開業しないで大病院で働くべき

大病院と違いクリニックはCTやMRIなどの高度な医療機器はなく、採血結果もすぐにはわかりません。医療機器はレントゲンやエコーくらいでしょうし、採血は翌日に結果が出ます。クリニックは高度な医療機器がないため、提供できる医療の質には限界があります。

その分野の権威の教授がクリニックで診療したとしても、医師5年目くらいの医師が高度な医療機器のある大病院で診療する方が、良質な医療を提供することができることでしょう。特に内科領域のサブスペシャリティー領域での診療は、CTやMRIがないためクリニックでは実現できないことが多いです。

一部例外としては、消化器内科が胃や大腸の内視鏡カメラを導入したり、呼吸器内科がCTを導入したりして、専門的に診断、治療することができます。
小児科はCTやMRI、皮膚科は皮膚生検しての病理検査、眼科はより高度な医療機器や手術設備、整形外科はMRIや手術設備などをクリニックで導入するのはなかなか難しいです。

なお、眼科、耳鼻咽喉科、整形外科はクリニックでも比較的高度な診療ができる傾向はあります。

専門医なくして開業なしという脅し

専門医なくして開業なしという脅し

進撃の巨人の話ではありませんが、「専門医という武器すらないままに医局の外に出ると、直ぐに殺られるぞ」と脅され、医局という高い壁の中で、行きたくもない地方の病院で時給1000円で働かせられるのです。医局に所属している医師は、開業医はたいした医療設備もない中で適当な医療をやっている悪い医師と、無意識のうちにもそう刷り込まれているのですが、逆にそういう風に考えなければやってられないという面もあるでしょう。
クリニックコンサルタントの私から言わせていただくと、クリニックで診療をおこなう技術があることは前提ですが、専門医を持っていても持っていなくても大きな差はありません。

その地域における医療需要と供給、クリニックの前を通りがかる人数と認知のされやすさ、医師の人柄の方が変動要因としては大きいということです。専門医を持っていない若手医師の先生は、バイト先の専門医を持っている開業医の院長よりも自分の方がよくできると感じることはありませんか?

医局に所属し続けるのに向いている人

医局に所属し続けるのに向いている人

医局に所属している医師のネガティブな面ばかり書いてしまいましたが、医局に所属し続けるのに向いている人もいます。

● 高度な医療を提供したい

医療設備のないクリニックではできることは限られています。CT、MRI、手術など高度な医療を提供したいなら、医局に所属して大学病院や大病院で診療していく方が良いでしょう。

● お金を稼ぐ必要がない

お金を稼ぐことに関心がない人や、実家が太くて資産家、配偶者が開業医や社長で稼ぎがいい人などは、多くのお金を稼ぐ必要はありません。バイトする必要もないので、研究に集中しやすいです。

● 研究が好きで得意

当たり前ですが、医局で出世するには論文で評価される必要があるので、研究が好きで得意な人が向いています。医師免許を持っている人が全員、研究が好きだったり得意だったりするとは限りませんし、適性がない人の方が多数派でしょう。

● 長時間の労働に耐えることができる

臨床をしながら研究をすることになるので、長時間の労働に耐えることができる必要があります。

● 開業医に向いてない

開業医をしていくには、診療力以外にも、管理力、経営力が必要とされます。勤務医が向いていても開業医に向いていないこともありますし、両方向いている人、両方向いてない人もいます。消極的な理由ではありますが、両方向いてない人は、あえて向いていない開業医を選択する必要はないかもしれません。

2.専門医を取得してから
開業するべきか?
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医局洗脳からの脱却