初診時の患者が受ける印象は、「再診→かかりつけ」に繋がる最初の一歩として非常に重要です。初診患者への接遇は行動を細分化してマニュアル化します。初診の患者さまへどのような応対をするかによって、「また来よう」と思っていただけるかどうかが決まります。
そのため、クリニックの接遇やルーティンワークはマニュアル化し、どの事務・看護師が応対したときにも一定の水準以上の応対ができるようにスタッフを教育することが大切です。その土台を構築した上で、医師や看護師がそれぞれの役割に沿った応対や接遇を遂行することで、クリニックの評価が決まっていきます。
初めてクリニックを訪れる患者さまは、主に、以下のような流れになります。
初診患者さまが受診するときの流れ
流れ | 場所 | 応対者 |
---|---|---|
(1) 予約 | 電話もしくはネット | 事務員 |
(2) 受付する | 受付 | 事務員 |
(3) 問診票記入 | 入口付近の待合室 | 応対なし |
(4) 受付に渡す | 受付 | 事務員 |
(5) 待つ | 診察室付近の待合室 | 応対者なし |
(6) 診察される | 診察室 | 医師 |
(7) 処置をされる | 処置室 | 看護師 |
(8) 会計を待つ | 入口付近の待合室 | 応対者なし |
(9) 会計をする | 受付 | 事務員 |
(10) 薬を受け取る | 調剤薬局 | 薬剤師 |
ご覧のように、患者は一度の来院で少なくとも3回も事務と接点があるのです。電話などでクリニックの所在地や診療時間を尋ねることもありますから、もっと回数が増えることもあります。事務は接点が多く、なおのこと「感じの良いほうがいい」ということになります。
このように、事務の受付での応対は、クリニック全体の評価にとってとても大きな影響を与えます。自院に合った事務の採用とスタッフ教育を行うことの重要性がお分かりいただけるのではないでしょうか。また、表にはカッコ書きで薬剤師を入れていますが、これは次のような理由からです。
一見すると、クリニックの中だけで診療が完結すると思いがちですが、患者の目線では、クリニックに(予約制であれば)予約の電話をするところから調剤薬局で薬を手にするところまでの一連の流れ、トータルで「通院した」と考えられているため、院外処方であれば、そのうち多くの患者さまがクリニック付近の調剤薬局に流れ、クリニックと「セットで利用」されます。
そして、もしもその調剤薬局の対応が悪ければ、その患者が次回、また来院しようという動機付けが弱まってしまう可能性もあるのです。「口コミ」の箇所でも述べましたが、初診患者さまにまた来ていただくためにも、近隣の調剤薬局の方々とはくれぐれも良好な関係を保つべきです。
クリニックの評価は、「感動」>「満足」>「納得」>「不満」>「失望」の5段階
実は、来院前の患者さまがクリニックに期待する水準は、ある程度決まっています。たとえば、「適切だと思われる治療が受けられて、病気が治ること」は、「そうであって当然だ」という水準に入り、クリニックで治療を受けたのに症状に改善が見られないというのであれば「不満」に繋がります。
同様に、事務や看護師の応対も、最低限の一般的な事務対応とある程度の気遣いは、「してくれる」のが当然と考えられるので、患者の予想通りであれば5段階中の真ん中の評価である「納得」ということになります。
スタッフの接遇をマニュアル化する最大のメリットは、マニュアル化することで、「失望」「不満」という悪い評価を避けることができる点です。もちろん最高評価である「感動」を目指したいものですが、応対のマニュアル化は、100点ではなく60点以上を狙うための対策です。
患者さまが「感動」する対策が目指せないからといって、マニュアル化に意味がないというわけではありません。マニュアル化によって「不満」「失望」を極力減らし、「納得」レベルの患者に、なるべく多く「満足」していただけるようにする。その土台が構築されてこそ、「感動」レベルも狙えるからです。
ここでは、不快な印象を与えない接遇のポイントを10つに分けて、具体的に説明しましょう。
「お大事にどうぞ」と言いながら相手の目を見る。特に、去り際の印象が大事。
作業に夢中になっているときの顔は、無表情で怖い印象を与える。口角を上げることにより、表情が柔らかくなる。
母音に注意することで聞き取りやすくなる。
伝えたい情報は一度に3つまでにまとめる。
目だけで笑顔になることはできない。マスク着用時も笑顔で応対する。
「恐れ入りますが」「お手数ですが」で思いやりの心を伝える。
「ご本人さまのサインが必要ですので、こちらにご記入をお願いできますでしょうか?」など、患者さまの面倒な気持ちを察して言葉でストレスを軽減させる。
会釈でおもてなしの心を伝えることができる。
患者さまに診察券をお返ししたあと、次の業務に取りかかる前に「1秒待つ」ことで、満足度がぐんと上がる。特に忙しいときほど急ぎがちであるが、そういうときこそ待つことが大切である。
ユニフォームの清潔を保つ、髪型を整えるなど、全員ができているからこそユニフォームの意味がある。規定を設けて、化粧や髪型が派手すぎないようにする。
これらの接遇のポイントを生かしながら、「電話は3コール以内で取ること」などのように、それぞれのクリニックの実際に合った具体的な行動をマニュアル化して示すことで、スタッフ全員が一定の水準以上の応対ができることを目指します。
医師にしかできないことは、主に「診療」と「処方」です。医師は、なるべく多くの時間を患者と向き合うために使ったほうが良いのです。クリニックによっては、クラーク(診察に同席し、その会話を記録する記述員)を雇っているところもありますが、これはそうすることでより一層医師が患者と向き合えるようになり、医師しかできないことに集中できます。
・ 診療
・ 処方
・ 患者への薬の説明
・ 食事指導
・ 受付
・ 電話応対
・ 問診票の確認
・ 検査伝票の記入
・ 採血(看護師)
・ 処置(看護師)
ただし、クラークを雇おうとする場合は、そのための人件費がかかること、また長時間密接に関わりすぎることから、人間関係がギクシャクするケースがままあることも考慮したほうがいいでしょう。
問診票を書くことで、患者さまは「頭の中の整理」ができます。問診票は、医師が患者さまの症状を知る上で聞かなければならないことを、会話せずとも知ることができます。また、問診票には、「起こっていない症状」を知ることができるというメリットもあります。
たとえば、「咳」という項目にチェックが付いていなければ、咳は出ていないのだということが分かります。患者さまは、今起きている症状について話すことはできますが、「起こっていない」症状について話すことは困難です。これらについて問診票を使わずに、診療時のやりとりだけで網羅することは、困難ですし、非効率的です。
また、たとえば、問診票に「3日前から喉が痛い」などのように、患者さまの「感じ方」や「どのように考えているか」を知ることができるので、これに従って対応します。これらの「感じ方」「考え」を引き出せるよう、問診票の項目には「開放型質問」を用いると良いでしょう。開放型質問とは「患者さまの話を遮らずに好きに話をしてもらえるような質問」のことです。
ところで問診票は、このように医師にとっては貴重な情報源であり、さらに診療時間をより有効な対話に用いることができるため必要不可欠なものですが、その一方で患者さまにとってはその都度書かねばならない「面倒」なものであることを忘れてはいけません。
こうすることで、必ず聞かねばならない項目の聞きそびれが防ぎやすくなりますし、診察時にも確認しやすくなります。また、問診票は「初診用」(住所、電話番号の記載欄あり)と「再診用」(住所、電話番号の記載欄なし)の2種を用意し、再診患者の負担を軽減しましょう。
問診票を渡す際に、一緒にクリニック案内のパンフレットをお渡しすれば、待ち時間に読んでいただき、クリニックのことを理解していただくことができます。クリニックからのメッセージも伝えることができますし、ご自宅や家に持ち帰って保存していただければ、再診率や紹介率を上げることに繋がります。紹介するときも、パンフレットが紹介しやすいでしょう。
6.かかりつけのクリニックに